比喩講座 その4




 異化とは、本来違う世界で、違う意味に使う言葉を、本来の意味以外の使い方をして、そのものの本質に迫るという技法です。

 《例》
「夜の底が白くなった」
「彼には保護色を求める気持ちがあって……」
「彼はその程度の浅瀬を渡っていたのだった」
「しいんと、静けさが鳴っていた」

 異化の例として「氷のような情熱」という比喩文があったとする。もしも、この文がいきなり出てきたとしましょう。正確な意味の分かる人間がどれだけいるやら。
 異化はただ、やりゃー良い、繋げりゃ良いってモンでもないんですね。

 適切な比喩は、物事の本質を一瞬のうちにつかませてくれるもの。比喩とは、作者が伝えたいことを言い当てるためにあるものです。
 ならば異化とは、従来の言葉では表現しきれないことを、その「普通とは違う使い方」でもってズバリと言い当てるためにある、ということになります。今までにないやり方だとか、新しい使い方だということは関係ない。伝えたいことを外しては意味がない。
 そこは同化も異化も同じです。

 作者は読者へ何を伝えたいのか。何を何に例えているのか。主旨を明確にする。
 「炎のような情熱」ならば、情熱の盛り上がりについて表現した同化の比喩だということになる。だったら、前もって暗に「これから自分は情熱について表現するよー」と説明しておいてイメージを《現像》させてから、「それは炎のような情熱だったとキメの比喩で浮かんだイメージを《定着》させる。
 さもなくば、まず「炎のような情熱」という比喩でイメージを《現像》させておいてから、後で説明文でもって《定着》させるか。
 比喩とは今までの文脈があるから、改めて内容について解説されずとも何となく分かるもの。さもなくば、前後の文脈でもって、きちんと分かるようにしておくか。ともかく、いきなり出さない。

《良例》
「愛を花に例えるなら、君はさしずめ大地に豊穣を与える太陽かな」
「まあ素敵」

《悪例》
 ようし、愛の告白をするぞ。彼女は例えるなら、大地に豊穣を与えてくれる太陽だ。そして我が愛は大地に育まれた花のよう。そして花はやがて種を残す。君の美しさで愛という花は咲き乱れ、告白しようという言葉に、種として結実するんだ。君にこの思いを受け取ってほしい!(←ここまで内心)
「デュフフ、拙者の子種を受け取っておくれ」
「唐突すぎて意味は分からないが、ともかく最低最悪だー!?」

 比喩とは、書き手である自分の中にある何らかの感情・伝えたいことを表現するためにある。あくまで表現方法のひとつです。それを「俺は勝手に比喩を使うから、読者が勝手に意味を考えろ」とか「俺様の高尚なる小説実験なのだから批判するな」では不親切にも程がある。
 ……こういう人、多いんですけどね(苦笑)
 だから比喩は、ここぞという時にだけ使う。無闇に連発しない。絶対に孤立させない。でないと、単なる言葉遊びになってしまいます。




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