物語の速度・規模 その1

      物語の中で流れる時間




 絵画の感動とは、見た瞬間に全て、いっぺんにやってくる。この、複数の情報が同時に表現される性質を《現示性》という。つまり絵画とは、現示性の芸術であるということができる。

 対して小説や映画や漫画といった物語芸術は、時間軸に沿って順番に情報を表現することで感動を与える。作品中では同時に存在するはずのものでも、一度に表現できず。ひとつの線としてしか表現できない。これを《線条性》という。
 物語とは線条性による、時間経過の芸術だということができるだろう。

 だが映画や漫画は、ひとつの画面に、複数の事物が映り込むことで。ある程度の現示性を有するというのに。文章は線条性に強く支配され、決して乱すことはできない。
 と聞くと小説とは、なんて不自由な芸術形式ではないかと勘違いする人もいるかもしれないが。それは違う。小説には他の芸術形式にはない、小説独自の時間が存在する。
 それを言説時間と物語内時間という。


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