物語の速度・規模 その6

     スケールを遠近法で考える




 ならばスケールの大きい小さいで、描写がどう変わるのだろうか。例えば町と、家と、ふたつのモチーフを描写したとして。絵画における遠近法的に比較して考えてみよう。

 詳しく町の描写をすれば、やがてその中に多くの家が建っていることが分かるようになる。だが、一戸一戸どんな家があるかまでは分かりづらい。
 対して家の描写を詳しく行えば、壁や屋根や窓や扉など。家の細部まで分かるようになる。だが今度は、家の建っている、町全体の様子が分かりにくくなる。
 つまり、大きなスケールのモチーフは、細部が分かりづらくなるが、全体をとらえやすい。対して小さなスケールのモチーフは、細部が分かりやすいが、全体をとらえづらくなるのだ。

 だったら大きなモチーフでも事細かく、全て片っ端から書けば良いのかというと、それは違う。
 アルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説に、このような話がある。ある国の地図を精緻に描こうとしたら、それは現実の国そのものと同じ大きさになってしまったというのだ。
 国と同じ大きさの地図ならば、確かに正確だろう。だがそんな地図を使いたがる人間など、いるわけがない。
 同じように、そんなカッタルイ小説を読みたがる人間など、いるわけがない。

 かといって町の散策に、世界地図を使う人間などいない。
 同じように、恋愛小説を読み出した読者へ、あらすじだけ伝えても仕方ない。恋愛小説に必要なのは、心の機微だ。小説には小説だからこその、魅力的な細部がある。

 こうしたスケールの違いから生じる、描写量の違いを。どう選んで書けば良いのだろうか。


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