コレクションSSを書こう その10

       コレクションSSのテンプレート




 さて本講座において最も危険な項目が始まろうとしています。

 今までの講座で、テーマ、設定、リアクションとアイデアが出てきました。ここまで来ると、プロットノックを百本もこなしたような腕の持ち主ならば、大体は問題がなくなるはずなのですが。
 でも、いるんですよねー。
 テーマに設定にリアクションの、これのどこがストーリーなんだ。こんなのでストーリーなんて思い浮かぶはずがない。挙げ句に、俺の考えたストーリーの何たるかと違うから駄目だとかいう人が。
 いや、オマエ小説を書きたくないだけだろうと。
 プロットノックやっていれば、そんな悩みは出てこないはずなんですが。自分で物事を考えない甘ったれほど、文句が多いものです。

 さて、ここからは問答無用。
 つべこべ言わず、ボクが指示する作業を、そっくりそのまま、命令通りに行ってください。

@テーマ、設定、リアクションのアイデアは用意しましたね?
Aまず目の前に設定を置いて下さい。
Bリアクションを設定の後に置きましょう。
C設定とリアクションの間に「ところが」を挿入します。
D最後にシメとして、リアクションの後にテーマを置いてみよう。
E各アイデアを演技としてシーン化してやれば小説のできあがり。

 だからDの作業終了段階で「設定 → (ところが) → リアクション → テーマ」という構成になっているはずです。
 ちなみにシメの演技化は、テーマを焦点子(視点の持ち主)に代弁させてやってください。

《例》
「ダガーは便利だ」
「彼女はかわいい」
「忘れられない光景だ」

 試しに何個か実例を作ってみましょう。

《例1》
●設定:ダガーは小さい → 演技:暗殺者が懐からダガーを出して寝込みを襲う。
●リアクション:どこにでも隠せる → 演技:こっちは枕の下に隠していた。
●テーマ:ダガーは便利だ → 演技:返り討ちにした。
●あらすじ:暗殺者が懐から隠していたダガーを出して寝込みを襲う。ところが、こちらは枕の下にダガーを隠していた。かくして返り討ちにしたのである。

《例2》
●設定:炎の魔剣 → 演技:抜刀すると炎が吹き上がる。
●リアクション:敵を倒す → 演技:鍔迫り合いで鉄の剣を溶かす。
●テーマ:炎の魔剣は強い → 演技:敵を剣ごと真っ二つにした。
●あらすじ:抜刀すると刀身から炎が吹き出した。鍔迫り合いになるが、熱で敵の剣を溶かし、敵ごと真っ二つにしてしまう。

《例3》
●設定:桜が満開での入学式 → 演技:新入生を迎える準備。
●リアクション:自分が上級生になってしまった → 演技:先輩は卒業していなくなってしまった寂しさ。
●テーマ:桜の美しさ → 演技:きっと桜を見る度に、先輩に告白できなかった苦さを思い出すのだろう。
●あらすじ:新入生を迎える入学式の準備をしていて、自分は上級生にってしまい、先輩は卒業していなくなってしまったのを改めて思い知る。きっとこの綺麗な桜を見る度に、先輩に告白できなかった苦さを思い出すのだろう。

 こうなると本作業はもうプロットノックの応用になってきます。プロットノックより簡単なくらいだとは思いますけどね。

 例3については苦手な人の多い、風景を起点にプロットを作ってみました。
 ちなみに風景描写について説明しておくと。人物描写は、動いた瞬間を描けば良い。しかし風景は動かないのに、どうやって描けば良いのか。
 西洋美術において「風景とは再発見されるものである」といいます。風景はもちろんですが、どこにでもあるもの。だが、何気ない普段の光景も、ある瞬間に特別なものになることがある。
 その特別になる瞬間に必要なのが、絵画を飾る枠・フレームということになります。枠の存在は、風景を見る人によって作られます。風景を見る人、すなわち視点の持ち主ですね。また視点の持ち主は、先述した《相方》としても機能します。
 つまり、視点の持ち主にとって、その風景が特別になる瞬間を描けば良いわけです。
 パントマイムで、演者の前に透明な壁があるように見えるのと一緒で。その景色を美しいと思っている人を描くことで、美しい景色自体を描く……といえば要領が掴めるでしょうか?


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