描写 その1

   小説用の文章




 テレビや映画や漫画など、物語を表現する方法はさまざまにある。そして今ほど多くの《物語》が社会にがあふれている時代は、人類史を俯瞰しても珍しいだろう。
 そのため、人々が物語に触れる機会は多くなる。多くの物語に触れていれば、名作にも出会う。すると、物語によって人生が変わるほどの影響を受けることもある。中には物語創作そのものに憧れるようになる人間も少なくないだろう。

 しかし。
 テレビ番組は一部の人間しか作れない。映画を作るには、大勢の人間の協力と、資金が必要だ。演劇も大勢の仲間と練習が必要になる。
 漫画なら個人でも創作可能だが、人に見せられる絵が描けるようになるには、長時間の訓練が必要になる。だが日本語なら誰でも喋れる。それで考えるのだ。小説なら自分でも書けるのではないか、と。

 確かに小説くらい、取っ付きやすい表現方法はないのかもしれない。だからと言って勘違いしてはならない。本当は誰でも小説が書けるわけではないのだ。
 まずは文章を書くためのイロハとか、約束事と言うものがある。これは当HPでわざわざ教えるつもりはない。知りたい思えば誰でも簡単に調べられる類の知識だ。小学生の国語の教科書に載っている情報に、あと2・3の知識があれば充分に事足りる。各人で勉強してほしい。
 それから、他人に伝わりやすい文章、正しい日本語が書けるようになるためには、多少の練習が求められる。だが中には美文調や重厚文を好む人間もいるだろうと思うので、ボクはあえて「伝えやすくて正しい文章の書き方」についても当HPで教えるつもりはない。本屋にでも行けば、その類のハウツー本は山ほど売られている。どうしても知りたいと言う人は、一冊買って熟読でもされた方がよほど早い。
 あえて一言だけ忠告するなら。文章を短く切った方が良い。修飾語に気をつけよう。そのくらいだ。
 第一「正しい日本語が書ける」と言うのは、「小説のための文章を書く」以前の問題である。当HPは《小説技術》の講座なのだから、日本語についての講座は行うつもりはない。どうせ少しの練習ですぐに身につくから心配はしなくても良い。

 だが以上に加えて小説には、小説のために学ばなくてはならない知識と、小説のためだけに身につけなければならない技術が、独自に存在する。
 ストーリーやキャラクターの作り方は、まだ他の物語創作の技術としても使える。映画や漫画のためにも役に立つだろう。
 ならば小説のためだけの技術とは何か。小説は文章でできている。つまり小説には、小説独自の文章の書き方が求められる。
 それが描写である。
 描写こそが小説書きの第一の醍醐味であると言っても良いだろう。


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