視点 その57

     パースペクティブと奥行き(2)




 ところで……空間の奥行き描写だが。正直に告白しよう。
 実はモチーフの情報量を調整し、いちいちパースペクティブをつける必要はない。「遠い」とか「近い」と単に書いただけでも本当は効果が出ちゃうのだ。

《例》
「十年の修業を重ねたというのに、いまだ師匠の足下にも及ばない。道は遠い」
(修業の奥深さと、自らの未熟さを描写)

 例えば、あるモチーフの場所を「高い」と表現したとしよう。ということは焦点子は低地に位置している、ということになる。
 これをパースペクティブとして表現したとすると。低地にいる焦点子が、遠いパースペクティブであるモチーフを描写する。するとそのモチーフは必然、高所に位置している、ということになるだろう。

《例》
「そろそろ麓の町も小さく見えてきたというのに。山頂はまだ遙か先、雲の中に隠れて見えない」
(焦点子はまだ登山途中)

 奥行きを出すための対比ならば、他にも色々ある。全体と部分。大と小。長と短。多と少。遠と近。広と狭。抽象と具体。早いと遅い。
 奥行きで表現するのは、焦点子とモチーフとの関係そのものだ。関係に合わせたパースペクティブを使いこなして欲しい。


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