ストーリー その14

   《序破急》のモデル 後編




 こちらの図を参考にしながら読み進めてほしい。

 ボクは《起承転結》の説明で、《承》と《転》は同質のものであると言った。そして、《序破急》において、《破》は《承》に、《急》は《転》に相当する。
 そして《承》と《転》が同質のものであるならば、《破》と《急》も基本的には同質のものであると考えられる。これを図式化するとこうなる。

  ・ 承 = 転
  ・ 破 = 承
  ・ 急 = 転
  ・ ゆえに 破 = 急

 と言うことは、《序》から《破》と、《破》から《急》へのつなげ方も同質のものだと推測される。すなわち、@とAは同質である。
 では@とAは《ミステリ》なのか《サスペンス》なのか。

 《ミステリ》とは「何が起こっていたのだろう」と言う、過去への期待感だ。一方、《サスペンス》は「これから何が起こるのだろう」と言う、未来への期待感だ。

 《序破急》を《設問》・《展開》・《結論》と言い換えると、《破》は《展開》を意味することになる。《展開》とは、提示された情報が膨らむことだ。
 また、物語構成上で《錯時法》を使うことで、物語内の時間は過去と未来を行き来することになるかもしれない。だが物語や、特に文章は、《線条性》と言う性質を持っている。物語では、いちどに複数の情報を受け手に提示することはできず、順番に情報を提示しなければならない。ゆえに読者の時系列は過去から未来へと、一直線のものとなる
 つまり《展開》は性質上、未来への好奇心を抱くことになり、《サスペンス》でなければならない。
 そして@とAは同質である。すなわち、@とAは《サスペンス》である

 ではBとは何か。
 Bは《設問》と《結論》をつなげている。つまりBは、提示された問題が解決される過程を表している。またBは、実は《序》から《急》へ一方通行に向かうだけのものではない。Bは時系列的に逆戻りすることも含まれている。
 《急》とは結論の提示である。結論が出されるためには、提示された問題を思い出さなければならない。言ってみれば、受け手は《急》において《序》への逆行が必要となる。
 謎が解決されることに対する、そして過去に対する期待感。すなわち、Bは《ミステリ》である。

 以上のように。
 《序》と《破》、《破》と《急》。すなわち、@とAは《サスペンス》でつながる
 そして、《序》と《急》。すなわち、Bが《ミステリ》でつながり、情報を行き来させる
 これが《ミステリ》と《サスペンス》を同時に成立させることのできる、構成の理想形だと思われる。

 この構成法を、部分と全体で行き来させるのだ。これは「はじめに」の第二回で説明した技法だ。
 単語、文章、段落、シーン、ストーリー。ひとつの技法は、あらゆる階層で使うことができる。いわゆる「入れ子状態」にするのだ。大きな《序破急》の、例えば《破》を、いくつもの小さな《序破急》で区切る。
 全体が《序破急》で分かれ、それぞれのシーンが《序破急》で構成され、もしかすると気付かなれないかもしれないが、ひとつひとつの段落も《序破急》で組み上がっている。

 構成に余裕はあっても無駄はない、とボクは考えている。
 この「《序破急》のモデル」と、《序破急》の「入れ子」化により、語り手は物語の中に存在する、あらゆる要素を制御することが、理論上は可能となる。
 あとはプロットの練り込みと言う、もっとも地味な作業だけである。ただ最低でも、練り込めば練り込むほど、自分で自分の作品が面白いのかどうかわからなくなる、と言う事態だけは避けられるはずだ。


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