奥行きのある風景を描こう:9

     近景から遠景へのカットチェンジ




 ではカットチェンジを行った風景描写、実際にやってみせましょう。

《例》
 コンビニのある角を曲がると、見上げるほどの坂道が現れる。急勾配で、チャリで登ろうなんて人間は、まずいない。道の両脇は鬱蒼とした野っ原で、夏ともなると草いきれでむっとする。
 だが息苦しさを抜け、坂のてっぺんまで着くと、眼下には海が見えた。強い太陽を反射し、波がきらきら輝く。他の誰もいない、地元でも自分しか知らない砂浜。
 やっと俺はこの坂を登れたのだ。後から実感がわき、自転車のハンドルから手を離して、ガッツポーズをしてみせた。

 実は一人称文である、ということを最後まで隠してみました。しかも焦点子が実は移動している……坂を登っている最中であるということも隠しています。つまりは、視点隠しの、移動隠し、という小手先の技を使っています。

 ところで、上の例文は「近景→遠景→近景」になっていないか、と指摘する方がいるかもしれません。ですが例文は一人称なので、その中だけで距離感が変わっている。
 数式で表現すると「近景→遠景→近景」ではなく、「一人称という近景(近景→遠景)」となっているので、主旨はブレていないはずです。


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