プロットノックをやろう その5

              元型力を得る



 このプロットノックを行って、どのような小説執筆能力を得られるのだろうか。
 もちろん、パッと先のストーリー展開を思いつく、発想の瞬発力が身につく、といった能力が身につきます。
 だがプロットノックは、物語作成においてもっと大事な能力に関わっている。それは「元型力」だ。

 ウラジーミル・プロップの構造論は、物語をいくつかの決まった「部品」に分解してしまった。だが構造論だけでは、部品をどう組み合わせるかの全体的な設計図が分からない。
 「全体の設計図」は少しでもモチーフが変わっただけで、あっという間に形を変えてしまう。部品を実際に組み合わせてみてから、出来上がった結果を見て「ああ、これは《貴種流離譚》だな」とか「《塔の上の姫君》だな」というように。過去のパターンと照らし合わせて、既存ジャンルに当てはめる。理論によって出来るのは、その程度までだ。

 そこで部品をどこに置けば、全体が物語として動き出すか。おおまかに全体を見通し、パターンを把握する能力が物語制作者には必要となるのです。
 例えば人は誰しも、自分に都合の悪い記憶を改竄し、しかも辻褄を合わせてしまう能力を持っています。これもまた、物語を作る能力といえるでしょう。
 その意味では子供だって物語を作る能力を持っているということになる。

 この「辻褄合わせ」を高度なレベルで行う。
 他人の過去のパターンに従うのではない。自分でモチーフに合ったパターンをこれから作る。すなわち、物語構造。神話元型。アーキタイプをイチから創造してしまう。そして元型こそ物語の源泉。ベタとは違う、王道を得るための訓練。
 これがプロットノックによって目指す「元型力」というものです。

 いってみれば元型力とは、古代の語り部が持っていたものと同じ能力。本来ならば天才と呼ばれる書き手が持つ能力と、ほぼ同じものになるでしょう。
 それを修行によって身に付けてしまう。これがどれだけ強力な武器になるか。お分かりいただけたでしょうか。


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