コレクションSSを書こう その13

       コレクションSSに関する諸注意




 昨今は小説書き人口が急激に激増しています。理由は多々あるでしょうが、間口の広さが小説書き人口の増加に繋がっていると考えて間違いないでしょう。例えば二次創作SSならば、設定を自分で用意する必要もありませんし。
 多くの競技人口があるというのは、良いことではあります。ただし多少は問題も起こります。

 二次創作をしていれば、自分で設定を考える苦労はなくなります。そして文体に関しても小説書きへの間口を広げた要因として、《2ちゃんねる文体》の働きがあります。2ちゃんねる文体とは、セリフのみの脚本文体による対話形式です。

 2ちゃんねる文体ならば地の文がないのですから、わざわざ面倒臭い描写を行う必要はありません。となると後はキャラ転がし……つまりはリアクションのみになります。ですが二次創作SSのリアクションなら、それこそ原作が参考になりますし。
 ストーリーに関してはリアクションによるシチュエーションの連続で、ヤマやオチなどは特にない場合が大半のようです。

 書くこと自体は良いことだと思います。2ちゃんねる文体による二次創作SSでだって、山ほど書いているうちに、中から才能を発揮する人も出てきています。
 ならば、もっと効率的な練習の仕方はないものか。SSですら書けない人に救済手段はないものか。2ちゃんねる文体の切り捨てた描写に可能性は残っていないのか。もっと描写のあるような、普通の小説に繋がるような練習法にできないか。
 そうボクは考えたわけです。

 ボクにいわせれば、小説の神髄は描写にこそあると思っています。
 今までの講座を受けてきた皆さんなら、改めて理解できるのではないでしょうか。描写とは設定を紹介すること。そして紹介とは、ストーリーや発想の中で行うべきもの。つまり描写が上手くなれば、ストーリー力も発想力も上手くなります。
 確かに小説描写文をイチイチ書くのは面倒臭いでしょう。2ちゃんねる文体の方が苦労しないでしょう。描写修業なんて、始めてすぐ効果が出るというものでもありませんし。

 ボクの経験則ですが。修業を開始してから最初の芽が出るまでに、最低でも半年以上はかかります。たとえコレクションSS修業によって、ひとつの作風が身についたとしても。すると次の不足が自分でも分かるようになるもの。後はもう、生涯続く戦いの日々しかありません。
 しかしランニングのように地道な基礎体力トレーニングほど、目に見えてに自らの実力として反映されます。描写とは年の功のようなもの。量を書いただけ上達する。決して裏切りません。

 ボクが手助けするのは、皆さんが迷わないよう道を指し示すだけです。歩くのはあなた自身。だから苦労は仕方ない。
 今までなら苦労しても書けなかった。それが自動生成法によって、いくらでもストーリーが思いつくようになったんですから。後は知らね。
 迷うことなく、好きなだけ苦労してください。

 と、ここで言い忘れていました。コレクションSS修業をやる意義、実はもうひとつあります。
 小説の腕を上達するには、書きながら憶えるのが一番です。しかし今までは、何を書けば良いのか分からいという人が多かった。プロ小説家への憧れが先行して、成功作と新人賞とにこだわり、書く前から悩んでしまう。だから余計に書けなくなる。
 よくあるパターンですね。

 けどねえ、書いてみると案外に萌えちゃうものなんです。失敗を恐れていた自分がバカらしくなるくらい。案ずるより産むが易し。
 これこそが描写の力。作家は文章で設定に命を吹き込む。動くからこそ、命あるように見えて。命あるように見えるからこそ萌える。逆にいえば文章化しない限り、その設定は萌えるかどうか、成功するかどうかは、分からないものなんです。
 ならば、サッサと書いてしまった方が良いに決まっている。
 そのためのプロットノックであり、アイデアノックであり、コレクションSSによる、大量生産能力なのです。書いてから悩め。迷う必要も、足止めされる理由も、既に失われたのだから。

 ただ中にはいると思うんですよね。「コレクションSSのテンプレート、これさえあれば、もう自分は楽勝だー! 何も考えなくて済む!」ってバカが。
 書く苦労がなくなるのも限度がありますし。皆さんにはボクから宿題として、罠をしかけさせてもらいます。
 コレクションSSのテンプレートのままに小説を書いて萌えるとしたら、でもそれは描写の力によるはずです。感情移入の萌えのみ。ストーリーのためではない。
 というのも実は講座から、わざと必要事項を抜き、面白さには邪魔になる内容を入れてさせてもらいました。
 いやあ、デチューン(性能を下げるための改造)には苦労した。

 つまり世の中には、面白さを含めた構成法が実在するわけです。ボクはそれを知っている。その上澄みだけをすくい取って作ったのが、コレクションSSのテンプレートというわけです。こんなテンプレートなんて、ボクにいわせれば技法ですらない。
 SWOT法も本当は他の技法のために使っていたのですが。コレクションSSにも転用できると知ったのは偶然です。どちらも「悪意あるだろ」というレベルに劣化させています。
 けど教えません。コレクションSSのテンプレートだけでも相当な手助けなのに。後は自分で考えてください。なあに、ボクが思いついたのだから、同じくらい苦労をすれば他の人が思いつくこともあるでしょう。

 いまハリウッド映画ではビートシートという構成法による脚本が流行しています。ビートシートを考案した脚本家さん自身は、みんなの手助けになるよう、だが余り依存しないよう忠告もしていました。
 ところが穴埋め問題のようにビートシートを使えば、どんどん売れ筋の物語が作れると。多くの脚本家がビートシートに頼り切りになってしまった。結果、多くのハリウッド映画が工夫のない、ワンパターンなものばかりになっています。

 ビートシートよりコレクションSSのテンプレートの方が根本原理に近い分、応用範囲が広く使いやすいはずです。
 しばらくの間、生産力はレアスキルのままでしょう。ですが長くドヤ顔はできません。だってコレクションSSのテンプレートはこうして、ネットで一般公開しているんだから。
 ボクは手助けするために、コレクションSS講座を書いたのではありません。生産力というスキルを一般化することにより、書き手志望者全体のレベル底上げを行うのが目的です。
 もう、書きたいことが分からない、という言い訳はできなくなりました。上達しないのは、怠けているから。才能は関係ない。そう、全ての人がわかるようになったわけです。

 苦境において人は誰もが近道を求めてしまうものです。そしてコレクションSSのテンプレートは確かに近道でした。ただし知っているのが、あなたひとりだけならばラクできていたのですが。
 けど近道を求める理由というのは、だいたいが他人に勝ちたいから。他人に勝てるからこその近道だったというのに。けど皆がその近道を知ってしまった。似たような作品を、他の人も書けてしまう。
 こうなると近道は既に近道なんかじゃありません。単なる、舗装された道です。
 つまり今この瞬間から近道が潰されたわけですよ。自分ひとりだけが楽勝できる近道は、確かに存在していたというのに。ボクが潰させてもらいました。
 もはや近道なんて存在しません。あわよくば、なんて都合の良い話も限りなく少なくなります。だって皆の実力が上がりますから。
 あきらめて、皆と並んで努力してください。さあさあ、人の倍努力しないと、抜きん出ることはできませんよ〜。がんばれ〜(笑)

 あっ、だからといって。プロットノックやアイデアノック抜きに、いきなりコレクションSSに挑戦するのは考えておいた方がよろしいですよ。
 プロットノックとは、物語元型力を鍛える訓練法です。物語元型力も抜きで、いきなりテンプレートに頼り切りでいると、更に物語元型力が衰えて、よけい下手になる恐れがあります。
 そうなったら将来、もしも面白さに関する技法が公表された時に。ひとりだけ対応できずに、ずっとコレクションSSしかやれない、ということになりますよ〜。

 だから……つべこべ言わずに、さっさとやれ。


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