「どこからか自分にしか聞こえない声がする」 と言う幻聴の表現方法を考える 難易度 : ★★☆(小手先) 修得前提技術 : 描写 |
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どうやれば小説独自の表現として、「幻聴」を描くことができるか考えてみよう。幻聴の表現方法なんて、ホラーくらいしか使い所はなさそうだが、そこは気にしない。 まずは方法1。セリフで書く。カタカナで表記する。実際にやってみよう。
……これは問題外だ。セリフで直接書いてしまうと、どうも普通の会話文と大差なく読んでしまう。擬音語と変わりない。そこで、幻聴が何を喋っていたのかを書かずに、読者にもわかるかどうか試してみよう。 方法2。主人公の動作のみ。幻聴が聞こえる人のパントマイムを描く。 例えば、普通に他人と楽しく会話をしていたら、いきなり後ろを振り向いて「うるさいっ!」と怒鳴る。話している相手には幻聴が聞こえていないので、傍目には狂人の振る舞いにしか見えない。 もしくはこんな例も考えられる。ある人がひとりでいるのを、誰かが見かける。ところがその人は、幻聴が聞こえる。するとその人は、ずっとひとりでブツブツ話している。他の人は、その人が幻聴に悩まされているとは知らない。本人は「誰か」と会話をしているつもりなのだが、傍目には壁に向かって話しかけているだけにしか見えない。 これならちょっと恐くなってきた。だが方法2ではまだ「小説独自の表現方法」とは言い難い。映像媒体でも可能な手法である。 そこで方法3。「幻聴が何を喋っていたのか書かない」のは同じ。ただ幻聴の内容をセリフではなく、地の文で説明する。 例えば、「ゲラゲラゲラ」とセリフで書くより、「嘲るような笑い声が聞こえてきた」と地の文で婉曲に書く。幻聴は何と喋っているのか明確ではなくなるが、臨場感は増す。 またセリフではなく、どのようなことを言ったのか説明にとどめることで、幻聴がますます正体不明になる。つまり、「オマエヲコロシテヤル」とセリフで書くのではなく、地の文で「殺意を込められた叫びが聞こえる」と言う程度にしておくのだ。 それで、段々と幻聴の声が明確になったりすると、効果として面白いかもしれない。 最初は「誰かを嘲るような声が聞こえてきた」だけだったのが、「俺を嘲る声がゲラゲラと聞こえる」ようになる。 そうやって、登場人物だけでなく、読者にも幻聴の内容を段階的に知らせる。 すると最後には、ただ単に「ゲラゲラゲラ」と笑い声だけをセリフで書いても、読者の中には物語を読んでいて植えつけられた印象が残っているから、陳腐には感じない。 またこの「声が明確になる」手法は、他にも応用が効く。 「声」の聞こえる回数が多くなったり、「声」の正体が見えてくる、と言うのも良い使い方だ。ストーリー展開としても使いやすい。 また「声が明確になる」手法は、視点の位置にも応用的な使いかたとして利用できる。例えば、作者の視点だったのが、登場人物の視点になる、と言うのはどうだろう。 「幻聴が彼を襲った」と言う文章では、第三者の立場から描いていることになる。 それが「彼は幻聴に苦しんだ」と言う文章になると、「彼」の立場から描かれていることになる。読者は感情移入しやすくなる。 このように徐々に視点を「ずらす」ことで、最後には一人称のように、「苦しい!」と独白文にしても違和感はなくなる。 視点の位置はずれているが、描写対象が「幻聴に苦しめられている人の姿」と同じなので、読者は混乱することはない。 |
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