物語の速度・規模 その10

      小手先のリズムの形成@




 以上、様々なテンポを使い分けることで、緩急の、いわばリズムを形成することができるようになる。
 リズムに唯一、最適というものはない。内容と場合によって使い分けなければならない。ならば、どのような使い方があるのか。いくつか実例を紹介してみよう。


 最も一般的で伝統的なリズムは、情景法と要約法を交代させることで生じる、といわれている。
 すなわち、緩急だ。
 要約法だけ使えば物語のスピードは速くなるだろう。だが同じテンポが続けば、それは「単調」ということになる。必要なのはメリハリだ。


 言説時間と物語内時間とで、違う速度の文章を衝突させることで、特殊な効果が生まれることもある。
 例えば長く対話の続くシーンでは、同じリズムの文章ばかりになって、単調になりがちだ。

《例1》
「やあ、おはよう」
「おはようございます」
「今日は夕方から雨になるらしいね」
「こんな晴れてるのに?」

 そこで台詞の合間を、地の文の説明繋いでやると、どうなるだろう。

《例2》
 おはよう、とお互いに朝の挨拶を交わした。
「今日は夕方から雨になるらしいね」
「こんな晴れてるのに?」

 例1と例2で内容は変わっていない。
 だが、こうしてリズムを変えることで単調な対話シーンに変化が生じただけではない。朝の挨拶に関してはサッと説明を済ますことで、天気に描写のフォーカスが絞られることとなっている。
 つまりこの例文は天気の話こそが本題になる、というわけだ。

 読者にどこを読ませたいか。どこをじっくり読ませたいか。更には、どこが文章の重点なのか。このように、リズムの操作によって変わるのだということを知っておいて欲しい。


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