視点 その37

   コミュニケーションの場




 そして「何かを共有する人々の集まり」のことを、「コミュニティ」というが。ならば「コミュニケーション」とは、他人と何かを共有しようと努めることを意味する。コミュニケーション(communication)の語源は、コモン(common)やコミュニオン(comunion)である。すなわち「共にすること」「共有」「親しい交わり」「仲間」といった意味だ。
 だからコミュニケーションは「伝達・通信・交通」といった意味だと正確にならない。コミュニケーションとは、コミュニオンの状態になること。
 他人同士、互いに知識や情報を共有して、はじめてコミュニケーションは成立する。情報を共有する仲間となってこその、コミュニケーションなのだ。

 そして物語という言語芸術も、コミュニケーションの一種だとしたら。物語とは何を共有しているのか。
 それはもちろん、物語契約だ。物語契約を互いに共有し、その物語世界の仲間となる。物語を読んでいる間だけは、全ての読者は一種のファンクラブ会員になると考えて構わないかもしれない。

 ボクはその「ファンクラブみたいな共同体」、「物語契約を共有した人の集合」のことを、仮に《場》と呼称している。
 不審がって聞く耳を持たないと話にもならない。相手を信じて、聞く耳を持つ。物語契約を共有する。そうして「いま」とは違う時、「ここ」とは違う場所へ参加する。《場》へ参入する。
 そうして世界観や常識観念を、一時的に違うものへと切り替える。それが読書という行為なのだ。


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