視点 その5

   立場としての視点(2)




 《立場としての視点》に関して、もう少し補足しておこう。

 AちゃんはBちゃんに意地悪しようとして、大好物のお菓子を後ろ手に隠しました……としよう。
 もしこれをAB両方の視点で文章化するとどうなるか。

 ・A視点 : Aはお菓子を後ろに隠した。
 ・B視点 : Aは何かを後ろに隠した。

 となる。
 BちゃんにはAちゃんが背中に何を隠したのか。当然わからない。だからB視点の文章では、Aがお菓子を隠したと知っていてはならない。

 もうひとつの例を挙げておこう。
 生徒が朝の教室の中で。先生が来るのを待っていた、とする。もしこれをそれぞれの視点で文章化するとどうなるか。

 ・先生 : 先生は戸を開けて、教室に入る。
 ・生徒 : 戸が開いて、先生が教室に入ってきた。

 先生の視点を映像化すると、先生が廊下から教室に入ることになる。しかしこれが生徒の視点では、どうなるか。生徒が教室で座って待っていると、ドアが開かれて、先生が入って来ることになる。

 最初は、割とどうでも良い書き分けかたに思えるかもしれない。
 だが、どの情報を知り得るのか。または、どの情報を知り得ないのか。《立場》の変化により違ってくる、と言うのは憶えておいてほしい。

 以上、基本的ではあるが、かなり重要である。よくあることだが、小説家ではない人間(例えばシナリオライター)が書いた小説が、とてもじゃないけど読めたものではないのは、大半はこの「狂い」による場合が多い。
 A視点のはずが、B視点による文章になっている。B視点のはずが、A視点による文章になっている。先生視点のはずが、生徒視点による文章になっている。生徒視点のはずが、先生視点による文章になっている。

 小難しい視点理論なんて理解していられないと言うのなら、以上だけでも気を付けておいてほしい。
 それだけで書く小説文は、ぐっと変わってくるはずだから。


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