視点 その53

     パースペクティブとカメラワーク(1)




 小説の視点は視覚に限ってはならない。だが、ここまで紹介した手法は、ピントにフォーカスにフレーム。やはり視点はカメラに喩えられてしまう。
 するとカメラワークとは文章だと何になるのだろう? そもそも良いカメラワークとは何ぞや、ということになる。

 改めて注意しておくが、視点は視覚に限らない。だから文章におけるカメラワークなんて、そんなものはない。だが、あえてカメラワークに良く似た効果があるとしたら。話す順序、ということになるだろう。
 カメラワークとは視線がどう動くかだ。文章になると、モチーフをどのような順番で説明するか、ということになる。

 文章におけるカメラワークについて説明するために、まずは悪例から見てみよう。
 描写の基本を思い出して欲しい。具体的な《もの》を並べることで、言葉にならない印象を浮かび上がらせる。これが描写の基本だ。
 だが文章には線条性という特徴がある。文章では何個もの情報を、一度に出すことはできない。一個ずつ出すしかない。そこに、ものの並べ方、順番が生じる。
 だから文章というのは「AがあってBがある。BがあってCがある。CがあってDがある」と文脈に沿って続くべきものだ。

 ところが描写の初心者は、どうも《もの》をダラダラと並べてしまう傾向があるようだ。
 文章だと「Aがある。Bがある。Cがある。Dがある」と《ものが》が淡々と並ぶだけで、繋がりがない。単なるデータの列挙になってしまい、味気ないリストと変わりなくなってしまう。

《例》
「美人だ。目がある、鼻がある、口がある、耳がある」

 単に並べるだけでは、本当はいけないのだ。順番によって、異なる効果があるのだから。
 この、ものの並べ方。描写講座ではお教えしなかったが。実はかなり高度な概念が必要となる。
 つまりこれからお教えする、ものの並べ方の手法、いわゆるカメラワークこそが、その高度な概念というわけだ。


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