ストーリー その15

   語る順序の魔法 実例1




 あとは実際にこれまでの構成法を使って、実際に物語を作る過程を見てみよう。まずはファンタジー風の物語だ。もしくは剣豪物と言うことにしても良い。

  AとB、ふたりの戦士が戦った。
  AはBより圧倒的に強かった。
  しかし勝ったのはBだった。

 以上が実例その1として挙げるストーリーの《シノプシス(粗筋)》だ。
 果たしてこのストーリーは面白いのか、つまらないのか。今の時点でまだ判断は出来ない。語り手の加工次第で、面白くもつまらなくもなるからだ。それはつまり、どんな画期的なアイデアも語り手の腕で、活きも死にもすると言うことを意味する。
 そこで、このままでは何が面白いのかわかない。語り手もこのストーリーのどこに重点を置いて描写すれば良いのかわからない。このストーリーにおける面白さ、つまりは《テーマ》となるべき部分を抽出してみよう。

 まずこの《シノプシス》のどこに《サスペンス》があるのか。考えてみる。
 注目すべきは、不利なBがどうやってAに勝利するのか、と言う点だ。そして《サスペンス》とは、「次はどうなるか」と言う期待感だ。つまり、AとBが戦うことで「どうなるか」に読者の興味は集中する。
 Bは自分より圧倒的に強いAに立ち向かうことになった。どうなってしまうのか。しかしBは戦う。きっとBは勝つに違いない。主人公は勝たなければならない。勝って生き残らなければ、物語は最後まで続かない。読者もそれを最初から期待した上で読み進めている。Bが勝つのは当然として、どうやって勝つのかと言う「勝ち方」に、読者は面白さを感じながら読み進めるはずだ。
 ならば語り手も、Bがどんな「勝ち方」をするのかに、重点を置いて書かねばならない。

 では次に《ミステリ》の在り処がどこにあるのか考えてみよう。
 《ミステリ》とは物語が持つ謎と、その謎の解決に対する期待感だ。ではこの《シノプシス》のどこに謎があるのかと言うと、なぜBはAに勝てたのか、と言う点にある。
 つまり、Bは自らの不利な状況に対して、どうやって切り抜けたのか。受け手に疑問を持ってもらわなければならない。
 すると最初のシーンはBが勝利した後からはじめて、回想により過去を思い出す、と言う構成がひとつ考えられる。AとBの戦いは物語のクライマックス、ラストシーンとなるだろう。
 そうすることで、最初から「勝てた理由」を謎として受け手に提示できる。あとは実際に戦い勝利することで、謎が解決されるまで、いかに受け手を牽引するかだけだ。

 以上がこの《シノプシス》における面白さのポイントとなるべき箇所である。
 読者は以上の点へ期待感を抱きながら、物語を読み進める。よって語り手は、この面白さのポイントに重点を置いて書けば良いだろう。
 とは言っても、語り手は無理に「その通り」にストーリーを構成する必要はない。書く作業とは語り手の自由である。こだわりもあるはずだ。運が良ければ偶然、面白い作品が書けることもあるだろう。ただ次も面白い作品が書けるとは限らないが。
 だから別に、受け手の感想は自分の執筆活動に関係ない、と言うのであれば、こんな「構成法」なんて小細工は無視してくれて結構なのだ。

 あえて「つまらなく書く」と言う「技術」だってあるのだから。


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