シーン転換の技法 その3

           シーンの対比




 マクラやヒキとは、シーンの一部分のみを使う転換法でした。ですが今度は、シーン全体に意味を持たせることで成り立つ転換法を紹介します。
 例えば、このようなシーンがふたつ並んでいたとしましょう。

《例》
兵隊が銃を撃つシーン
 ↓
(シーン転換)
 ↓
人々が悲しむシーン

 すると読んでいる方は、戦争で命が喪われて、人々が悲しんでいるのだろう、という印象を抱くことになります。以上、ふたつのシーンが並ぶことで、戦争反対というメッセージが引き出されるのです。
 こうしたシーン転換というかシーン配置法。シーンをそのような順番に並べた意図から、読者は作品に籠められたメッセージを後から察することになります。つまり、メッセージ自体がシーン転換のツナギとして機能しているのです。

 再び、前章の図を見てみましょう。
 今回の場合、シーンA・Bの重複部分には何も記述されていません。ですがA・B両方を読むことで、重複部分が浮かび上がることとなる。
 行間を読ませる、黙説法[レティサンス]に似た技法といえるでしょう。

 ただしこの技法には、問題があります。さきほどの例ですが、シーンの順番を入れ替えてみましょう。

《例》
人々が悲しむシーン
 ↓
(シーン転換)
 ↓
兵隊が銃を撃つシーン


 今度は、悲しむ人々を守るために、兵隊が戦うような印象となる。つまり国家高揚のメッセージになってきます。
 これはカットの組み合わせ方により意味を表現する、映画でいうモンタージュ技法のようなものと思って構わないでしょう。

 試しに、別の例を挙げてみましょう。

《例》
A:彼は成績優秀だ。
B:彼はドジだ。

A→B:彼は成績優秀だが、ドジだ。
B→A:彼はドジだが、成績優秀だ。

 A→Bの場合、ドジが強調されます。B→Aの場合なら、成績優秀が強調されるようになってきます。
 これ以上は話術の領域になってきますし、何度も数をこなして勘を鍛えないと分からない部分もありますから省略しますが。こうした前後関係による印象の変化には注意してください。

 またシーン対比は、行間の技法です。サブリミナル的に読者が気付かない程度で上等。あまり、あからさまに演出し過ぎて、行間が本文を邪魔しないよう気をつけましょう。


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