物語の速度・規模 その2

     言説時間と物語内時間




 実際にその文章を読むのにかかった、読者の時間を《言説時間》という。一方、物語の中の登場人物に流れる時間を、物語内時間という。
 小説の時間経過とは、このふたつにより成り立つ。

 言説時間なら例えば、一行読むのに五秒かかった。一ページ読むのに五分かかった。一冊読むのに二時間かかった。すると言説時間がそれだけかかった、ということになる。そう教えられると、簡単に思えるだろうが、内実は複雑だ。

《言説時間の例》
例文A : 太郎は叱りつけた。「コラッ!」
例文B : 太郎は叱りつけた。

 この例文を読んでほしい。例文A・Bとも同じ内容を表現している。だが例文Aは二文で、例文Bは一文から成る。となると当然、読む時間は例文Aの方が長くなってしまう。
 つまり物語内時間は同じでも、言説時間が違ってくる場合もあるというわけだ。ならば物語内時間では、どのような時間が経過するか。

《物語内時間の例》
例文C : 栄えた王国も、百年後には滅んだ。
例文D : 刹那の間に何合もの剣戟が交わされる。

 例文C・Dは両方とも等しく、四文節から成っている。例文Cならば「栄えた」「王国も」「百年後には」「滅んだ」の四語。例文Dならば「刹那の間に」「何合もの」「剣戟が」「交わされる」の四語だ。
 つまり例文CDともに、読む時間つまり言説時間は同じということになる。だが読者にとっては同じ時間が経過しているのに、物語の中で経過している時間は、百年と数秒。大きな隔たりがある。
 同じ言説時間でも、物語内時間が同じとは限らないわけだ。

 以上のように言説時間と物語内時間は、常に一定に流れるとは限らない。
 そして言説時間と物語内時間によって作られる、独特の時間経過を、テンポやリズムという。


← Return

Next →


Back to Menu