物語の速度・規模 その3

        テンポの種類(1)




 文章上における、時の進む早さのことを、テンポという。この章ではテンポにはどのようなものがあるか。いろいろな種類のテンポを紹介してみよう。


■休止法
 言説時間が物語内時間の経過に対応しない場合。分かりやすくいうと、どれだけ読んでも物語が進まない場合。その物語は止まっているといえる。これを《休止法》という。
 とはいっても文章において、映画のように完全なストップモーションは不可能だ。文章には線条性があるゆえに、読者へ情報が提示され続ける限り、何らかの物語は進んでいるといえる。だから「休止」とはいっても、正確には「限りなく停止に近いスローモーション」といえるかもしれない。

 休止法を使うすべは、ふたつある。ひとつは、作者が物語内に介入してきて解説をはじめるのだ。すると作者は物語外の存在であるため、物語内は進まなくなる。

《例》
さて戦いの最中だが、ここまで書き進めて作者である私には、ある思いがあった。

 もうひとつは、饒舌すぎる描写によって引き起こされる。特に本筋とは直接の関係ない描写が行われると、物語は進まないで停滞する。
 もちろん本当に関係のない話題であれば、物語に無駄なので省くべきであり。実は後々に意味が生じるから語る必要があるのだろうが。当の読者にとっては物語が停滞したように感じられるわけだ。

《例》
剣戟の間、思い出していた。あれは十年前の出来事だ。


■省略法
 本来ならば物語内で一定時間が経過したはずなのに、そこを表現する文章がない場合は、《省略法》といえる。

 省略法は一種の黙説法ともいえるだろう。参考にしてもらいたい。ただ省略法独自の注意として、ひとつ。省略法を使うと時間が断絶してしまう。ストーリー内で何が起こったのかという整理を怠ると、すぐ時間軸が混乱してしまうので気をつけること。

《例》
「愛しているよ」
 俺は彼女をベッドに押し倒した。
 ↓
「朝か」
 傍らには裸になった彼女がいる。

(いわゆる朝チュン)


■情景法
 言説時間と物語内時間の経過が等しい場合には《情景法》となる。
 最も代表的な情景法の文章は、セリフだ。セリフではまさに、読む時間と物語内の時間は等しくなる。

 ところでなぜ「情景」なのか。名付けたのはボクじゃないので、正確には分からないのだけど。予想するに、読者が物語内のその場にいられるような、同時性のある文章だから「情景」法なのではないかと考えている。
 つまりはリアルタイム性こそが情景法。実況と考えても分かりやすいかもしれない。

 そう考えると小説にはどうしても緩急があるし、読む早さは読者の自由だ。だから情景法は小説において、あまり重要ではない技法といえる。小説で物語内と読者との、完全な同時性を図ることは不可能だからだ。
 ただし映画などのメディアによっては重要な技法となってくるので。憶えておいて損はないだろう。


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