視点 その46

      パースペクティブの原理




 さて、長かった視点講座だが、ここからが真の本題だ。
 読者は焦点子と同化し、自己投影する。だが読者がどう感情移入するかを制御するだけでは不充分だ。
 そこで紹介するのが、描写の応用技法にして、視点と人称の上位互換技法である、パースペクティブ技法だ。
 パースペクティブとは、絵画における「遠近法」という意味だ。平面であるはずの絵画に、どうすれば奥行きや立体感を出すか。という絵画における重要なテクニックが遠近法、パースペクティブになる。

 だから小説でパースペクティブというのも、もちろん奥行きや立体感を文章の中に出すためのテクニックということになる。本当にそんなことが可能なのかと思う方もいるだろう。だが本当に可能なのだ。

 焦点子とモチーフとの距離は、どのように描写されるかによって分かる。
 例えば、モチーフが焦点子から遠い場所にあると、大まかな様子しか分からないが、視野は広くなる。逆にモチーフが焦点子から近い場所にあると、細かい様子まで分かるが、視野は狭くなる。

 もし一軒の家を描写するとしよう。
 遠い場所にある家を見ても、せいぜいが屋根や壁の色など、大まかな様子しか分からない。だが家の周囲まで含めて、全体の様子を見ることができる。
 次に、家の近くまで移動したとしよう。すると、壁の素材や染みついた汚れの形状など。もしかしたら窓をのぞき込んで中の様子まで、家が事細かく分かるようになるかもしれない。だが今度は、見上げでもしない限り家の全体像は見えなくなる。

《例》
●遠い「丘の上まで続く道の先、やっと赤い屋根の家が見えた」
●近い「家に着いた。赤煉瓦の屋根に、白い漆喰の外壁。古いがモダンな様式だ。窓はカーテンが閉められて、中の様子は見えない」

 以上がパースペクティブの基本理論である。つまりは焦点子とモチーフとの距離感を、情報量によって「ほのめかす描写」だといえる。
 たった、これだけだ。だがボクにいわせれば、パースペクティブさえ使いこなせば、小説で表現したいことの大半は描写可能になると信じている。


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