視点 その45

      「視点移動」の技法(2)




 前章では省略してしまったが、視点移動をスムーズに行うためのコツがある。
 再び、この図を見てもらいたい。一度の視点移動で動けるのは、一段階まで、隣接する焦点子までと意識しておこう。
 移動が急すぎては、読者が戸惑ってしまう。だから「ピッチャーの一人称→バッターの一人称」という移動はありえない。

 最悪なのは、焦点子Aで始まった文章が、気がつくと焦点子Bになっているという文章。いわば「主語の横滑り」だ。これじゃあ読者は焦点子以前に、主語すら見失ってしまう。

《例》
「Aが投げた球を打ったのはBだった」

 ならばあるキャラクター視点Aから、別キャラクター視点Bへと移動するにはどうするかというと。焦点子ABのどちらとも取れる視点の文章を、間に挟むのだ。

 この場合は無人称が無難だろう。
 すると、登場人物内三人称と物語内登場人物外視点との行き来が、視点移動としては多用することになるだろう。

《例》
「彼は眉をしかめた。不愉快なのだ」

 内心に関するモチーフを描きながらの視点移動ならば、できるだけ表層的な客観描写を行えば、無人称となる。

《例》
「彼は怪我をする。彼は痛がった」

 また一度の視点移動できるのは一段階まで、ということは。一人称から物語外視点への移動も可能となる。まず物語外視点の文章自体が危険なので注意すること。

 視点移動はかなり難しい高等技法だ。慣れるまで真似しない方が良いだろう。大切なのは、視点を狂わせないことではない。モチーフを狂わせないことだ。
 モチーフの焦点、すなわち何を描写しているか。どのように描写しているか。視点と人称のどれだけ基礎を守れているかが、最も問われる応用技法だといえる。


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