視点 その48

    パースペクティブと三人称




 本来ならば焦点子の位置が動きにくく、視点の狂いにくい一人称ですら、前章で説明したように、複雑なパースペクティブを持つ。
 これが更に自在に焦点子の動く三人称だと、もっと複雑になってくる。

 「客観的な一人称」とは本来ならば一人称の中でも、例外中の例外の文体だった。それが三人称だと、登場人物外特定視点であったとしても、簡単に距離が変わる。
 焦点子と登場人物との距離が近くなれば、「客観的な一人称」のような文章になり、もっと近づいて同化すれば一人称となる。
 ところが登場人物から焦点子が離れれば、焦点子は人物を無視しはじめ、登場人物外不特定視点となる。さらに物語内からすら遠ざかれば、やがてゴッドビューとなり、作者の視点となる。

《例》
●一人称の自分語り「私ことAはBを愛しています」
●客観的な一人称「Aすなわち自分はBへの愛を持っている」
●登場人物外特定視点と、客観的な一人称の、どちらともいえる「AはBを愛している」
●登場人物外特定視点「AがBを愛していた」
●登場人物外不特定視点による代弁文体「AのBに対する気持ちは愛だ」
●登場人物外不特定視点による伝聞文体「Aという人物はBを愛していたという」

 モチーフが、自分など目の前にあれば近く、他人など目前になければ遠い。同一存在であるか、他人事であるか。自分自身について語るか、代弁して語るか。そうして、自分事、割と自分事、割と他人事、他人事、と遠近が変わる。
 最終的には既に、別人の視点になっていると言っても良い。これがつまり視点移動の原理だ。


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