視点 その55

     パースペクティブとカメラワーク(3)




 ではパースペクティブを基準にモチーフの順番を決めるとして。どんな順番で描けば、どのような効果があるというのだろうか。

 まずは試しに、「モチーフの全体像を捉える」効果をやってみよう。
 全体ということは、パースペクティブは遠くから、カメラワークでいう「ロング」「引き」から入るということになる。すると文章としては大雑把な大意から入るということなり。読者としては、意味の把握しやすい文章となる。
 それが急に細部が描かれる。ロングで大雑把に映されていたモチーフが、クローズアップされるような感じだ。だが文の大意は既に把握できているので、読者としては混乱しにくくなるはずだ。

《例》
「美人だ。特に目が印象的だ。長い睫毛が瞳の輝きを強調しているように見える」

 そして先に大意を提示した理由は他にもある。基本的に、先に出した印象は強くなるからだ。
 上記の例の場合ならば、「美人である」という一般的な特性・全体性を主旨として強調して伝えたい、ということになる。目や睫毛といった細部は、「美人である」ことを修飾している。
 これが文章における、モチーフの全体を捉えて伝える、ということだ。

 対して細部から入り、全体を伝えるというカメラワークではどうなるだろう。

《例》
「長い睫毛は瞳の輝きを強調しているように見える。目の印象的な女性だ。美しい」

 もう一度いうが、先に提示した印象は強くなる。ということは、この場合では「美人である」という特徴を強調する気がないということだ。
 この場合に伝えたいのは、クローズアップされた小さな部分。細部を持つということは、つまり個性だ。「美人」なのは主旨ではないのだ。

 だがもちろん、カメラワークにも例外はある。モチーフの並べ方の中に「でも」「しかし」と逆接の接続詞を入れたとしよう。

《例》
「美人だ。でも目が印象的だ」

 逆接により、最初の主旨は否定される。代わりに新たな主旨が提示さえる。いわば別の2モチーフを描いているようなものだ。
 だが先に提示した情報の残像は残る。残像は、後のモチーフを引き立てる機能を持つことになる。
 つまりこの文章の大意とは、美人だということを否定するくらい、目という個性が印象的だ、ということになる。

 というように。皆さんも国語のテストで解かされたことがあるだろう。カメラワークによる文章の順番は、修飾・被修飾の関係と意味を文章に与える。
 全体から部分へ。部分から全体へと。場合によって、それぞれ様々の効果がある。できれば常に意識して文章を書き、習熟してほしい。


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