ストーリー その1

   面白い話を作りたい




 当ホームページは小説技術のレクチャーを行う場である。そしてこれから行うのは「面白いストーリーの作り方」についての説明だ。
 しかし、面白いストーリーの作り方を教えてくれと言われても、実はすごく説明しにくい。だからその前準備として、少し前置きが長くなるかもしれないので、覚悟してほしい。

 そもそも「面白いストーリーの作り方」の前に、「面白いストーリーとは何か」が説明できにくい。人によって、また場合によって、面白いストーリーの基準とはものすごく曖昧なものだ。

 確かに面白いと言う感想は、感情に属している。なぜ面白かったのか説明しろと言うのは、感情の理由を説明するようなものだ。
 人によって面白さの基準は全然違う。同じ人でも、以前に面白いと感じたストーリーと似たストーリーをつまらなく感じることもあれば、全く違う方向性のストーリーに面白さを感じることがある。更には、初見では面白かった作品も、二度目以降は感動できなくなる。

 それを当然だと、自明の前提として物語を語ることはたやすいだろう。でもボクは疑問を持ってしまった。疑問を抱いたからには解決しなければならない。

 例えばあなたが一本のハリウッド映画を見たとしよう。迫力あるアクションが盛り込まれた王道の大作だ。しかもどうやら当たりだったらしく、あなたは感動してしまった。その感動の理由を、あなたは具体的に説明できるだろうか。
 もちろん部分部分で、ここの伏線が巧みだったからあそこが盛り上がったとか、理由付けることは可能だろう。
 ただ問題は、全体として何となく良かった、ストーリーが感動的だった、と言う感想を持ってしまった場合だ。

 実際、過去からずっと感動を人々に与え続けている、古典と呼ばれる類の名作になるほど、「全体として良かった」としか表現のしようがない、素晴らしい読後感を与えてくれるものが多い。
 中でも特に、文学より以前に属する、神話や伝説や昔話やお伽話などの、素朴な物語である。余計な夾雑物を取り払われたストーリーほど、感動の理由を説明しづらくなる。
 つまり粗筋が明確で王道の物語ほど、感動してしまった時、感動の理由が説明しづらくなるのだ。

 さっきボクが例としてハリウッド映画を挙げたのは、明確な物語のサンプルとして、ハリウッド映画が適していると思ったからだ。『スターウォーズ』が制作にあたって、世界中の神話や伝説を研究したと言うのは有名な話だろう。

 この疑問に対し多くの文学者や評論家が説明に挑戦している。特にボクが最近読んだ中で印象的だったのは、大塚英志さんの試みだった。
 それは、過去の名作から《構造》を換骨奪胎させて、面白いものを作ろうとする試みだった。
 具体的にどのようなものか説明すると、こうなる。

 《構造》とは「材料の組み合わせ方」である。つまりは物語の展開をパターンとして構造化、分解し、そこへ他の材料を当てはめようと言うわけだ。
 例えば、ひとつの名作がある。その名作はなぜ面白いのか。成長物語だから面白い。現代の、かつオリジナルの成長物語が作れないか。ならば、成長物語という明確なストーリーパターンを踏襲させながらも、現代的なモチーフを代わりに散りばめることで、新たな成長物語を作ろうと言うのだ。

 ただこれだけでは、「面白くなるから《構造》を使おう」と言うだけで、なぜ「《構造》のしっかりした作品が面白いのか」と言う理由がわからない。

 これに対しボクは考えた。
 《構造》は面白くなるための十分条件ではなく、必要条件に過ぎないのではないか。《構造》を持っていても面白くなるとは限らないが、どうやら面白いものは明確な《構造》を持っているらしい。すなわち「面白い」と言う概念は《構造》より小さな集合に属するのではないか。

 ならば物語の面白さが持つ、より原初的な本質のようなものを抽出することが出来るのではないか。そうすれば、過去の名作を換骨奪胎するだけでなく、真にオリジナルの《構造》が作れるのではないか。
 これがボクの考えだ。



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