ストーリー その12

   《ミステリ》と《サスペンス》




 「面白さと言う情報価値の作り方」にはどのような方法があったか。もう一度おさらいしてみよう。

 未知の情報に対して受け手は好奇心を抱く。好奇心は読み進めるちからとなる。それともうひとつ、緊張状態が生じることで、受け手は「次はどうなるのだろうか」と言う期待感を抱く。この期待感も読み進めるちからとなる。
 以上のふたつをボクは挙げたはずだ。
 これからは、そのふたつの「面白さ」を《ミステリ》《サスペンス》と言う、技術用語で呼称しようと思う。

 《ミステリ》とは、神秘とか謎と言った意味だ。つまり、未知の情報を提示することで、受け手を読み進めたいと感じさせる技法である。推理小説などは良い例だ。
 もうひとつの《サスペンス》とは、未解決、不安、気掛かりと言う意味だ。つまり、ストーリー展開や状況などによって、受け手に不安感や緊張感を与えることで、「次はどうなるのだろうか」と言う期待感を与えると言う技法である。

 ちなみに、《サスペンス》とは「吊るす」と言う意味の英語「suspend」から来ている。例えば、ズボン吊りのことを「サスペンダー」と言うだろう。「サスペンダー」は「suspend」から来ている。
 では物語における《サスペンス》技法は、何を「吊るす」というのだろうか。イメージしてみてほしい。人が崖から落ちそうになっている。何とか崖の端を手で掴んで墜落は免れているが、このままではいつ手が離れて崖から落ちるかわからない。
 このような「次はどうなるのかわからない」と言う宙ぶらりんの状態を、崖から吊るされている状態に譬えて、《サスペンス》と呼ぶのだ。またこの「崖から落ちそうな状態」のことを「クリフハンガー」とも言う。これも技術用語だ。
 と言うように考えると、憶えやすいのではないだろうか。

 つまり物語の面白さには《ミステリ》と《サスペンス》がある。ストーリーとは《ミステリ》と《サスペンス》の繰り返しであると同時に、《ミステリ》も《サスペンス》も含まれないストーリーは存在しない、と言うことになる。
 あるのはただ、《ミステリ》と《サスペンス》に失敗して、効果的でなくなったストーリーだけだ。

 ボクは「受け手が欲しがるのは、語り手の情報の並べ方そのもの」だと言った。そして物語は複数のシーンを組み合わせることで構成されている。
 つまり、どのような意図で、複数のシーンがつなげられているのか。《序破急》の中で、《ミステリ》と《サスペンス》がどこに配置され、どうやって機能しているのか。もしくは、《序破急》の中に《ミステリ》と《サスペンス》をどうやって組み込めば良いのか。
 これを理解することが、「理想の構成法」とは何かがを理解することにつながるはずだ。


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