ストーリー その16

   語る順序の魔法 実例1 補足




 もうひとつの実例に入る前に、ちょっとした専門知識を補足しておこう。それは、《シノプシス》と《プロット》とは違う、と言うことだ。

 良く小説技術の初歩の段階で、
「書く前にプロットを作ると良い」
「プロットってなんですか」
「あらすじのことだ」
なんてやりとりがある。

 だが実は、「あらすじ」とは《シノプシス》のことである。《プロット》とは「構想」のことを言うのだ。このふたつの何がどう違うのか。

  王が死んで、次に王妃も死んだ。

 これが《シノプシス》。「あらすじ」だ。《シノプシス》とは、ただ「あったこと」を順序通り記述したものに過ぎない。
 では《プロット》とは何かと言うと、

  王が死んで、次に王妃も悲しみの余りに死んだ。

 と言う、これが《プロット》となる。《プロット》とは「諸事象についての物語で、特に因果性に重きを置く物語」のこと、らしい。以上は辞典からの引用だ。

 さっきボクは「あらすじ」に過ぎない《シノプシス》のどこに《ミステリ》と《サスペンス》を見出すことで、物語を《テーマ》化出来るかについて、やって見せた。
 つまりはこのように、物語のどこが面白いのか、もしくは物語をどうやって面白くするのかが、明示されたものを《プロット》と言うのだ。

 作品を書く前には、やはり「覚え書き」は作っておいた方が良い。ただし《シノプシス》を作るのと、《プロット》を作るのとでは、作業としての質が違う。
 《シノプシス》は物語内で起こった事件を時系列に並べることで、「自分はいま何を書いているのか」が混乱しないようにするために有効である。
 一方《プロット》は「自分がいま書いている文章は、何のためのものなのか」を把握するために有効である。

 と言っても両者の差は、ごくわずかなものであるし、専門知識としてもマニアック過ぎる。別に憶える必要もないが、憶えていれば自慢くらいにはなるだろう。
 ただボクが両者の違いを理解するのに、ひどく苦労した覚えがあるので、蛇足ながら付け加えておく。


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