視点 その10

   視点のフレーム(1)




 まずは専門用語の説明をしよう。
 視点の持ち主のことを《焦点子》と言う。憶えておいてほしい。

 視点そのものを知っても、役には立たない。だが視点が《位置》することのできる範囲については、知ることはできる。
 つまり、焦点子がどこからモチーフを観察しているか。焦点子が物語世界のどこに存在できるのか。以上を知る必要がある。
 そこで、焦点子が存在できる、物語世界の範囲を区分してみよう。

 まず、もっとも大まかな視点の区分には《物語外視点》と《物語内視点》がある。
 焦点子が物語世界の外に存在していた場合に《物語外視点》となる。これは例えば、全知全能の神様や、物語の内容を回想する語り手が、焦点子であった場合に相当する。物語内の世界には存在しない、無関係な焦点子が《物語外視点》だ。
 一方、焦点子が物語世界の内側に存在していると、《物語内視点》となる。これは、焦点子が物語の中の誰か。例えば、誰か登場人物の立場になって、代わりに物語を語ってくれている場合。もしくは、登場人物自身が焦点子である場合。これは一人称とも言うが。以上の場合に《物語内視点》となる。

 次に《物語内視点》は更に、《登場人物内視点》と《登場人物外視点》に分かれる。
 《登場人物内視点》とは、物語内の登場人物と、焦点子が同じである場合を指す。つまり一人称とは《登場人物内視点》のことである。逆に考えると《登場人物内視点》以外の、他の全ての視点は三人称であるとも言える。
 そして《登場人物外視点》とは、誰でもない語り手が、代わりに物語内のモチーフを観察している場合を指す。《登場人物外視点》での焦点子は、物語に干渉しない第三者であり、観察のみを行う存在である。
 映画で言うならば、カメラのようなものだ。視聴者も登場人物も意識することはない。だがモチーフを観察するために必要なので、仮の存在として認められる。日本風に言い換えれば、人形を裏から操る黒子と言うことになるだろう。

 最後に《登場人物外視点》は、《特定視点》と《不特定視点》に分かれる。
 《特定視点》とは、第三者である焦点子が、物語内の何者かを代弁している状態である。重要なのはこの、代弁していると言う状態だ。あくまで《登場人物内視点》と、《登場人物外特定視点》とは違うことを忘れてはならない。
 それが《不特定視点》になると、第三者である焦点子は、誰の立場にも偏らない。本当の意味での傍観者となる。《不特定視点》は、《物語内視点》の中でも、もっとも《物語外視点》に近い視点の位置だ。

 これらに加えて、概念上の存在として《物語外登場人物内視点》を加える。つまり視点には全部で

 ・ 物語外 視点
 ・ 物語内 登場人物内 視点 (=一人称)
 ・ 物語内 登場人物外 特定 視点
 ・ 物語内 登場人物外 不特定 視点
 ・ (物語外 登場人物内 視点)

 以上、合計5つ、焦点子の位置があると言うことになる。


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