視点 その34

   主旨と視点の不一致(2)




 せっかく書き上がった作品を、人に読んでもらったら自分の意図が伝わっていない、もしくは間違って伝わっている。そんなコンセプトレベルでのトラブルは、小説書きならば何度も遭遇しているだろう。コンセプト、つまりは主旨だ。
 「何を書きたいか」と「どう書くか」。読者が読みたいものと、作者が書きたいもの。主旨と感想。モチーフと手法。作風と文体。それらの不一致に小説書きはいつも頭を抱えて悩むことになる。
 この場合の手法・文体とは視点であると言い換えても構わない。


 例えば、密室殺人を取り扱った推理小説を読んでいて、実は犯人は超能力者で密室から瞬間移動しましたというオチだったらどうだろう。
 読者は推理小説に対し、解決されるための謎が求められる。謎を前提に読まれることになる。だがこのオチだと、途中の解決しようとするストーリーは不要どころか、台無しになってしまうだろう。作者が書きたいことと、読者の読みたいこととが一致していない例だといえる。


 主人公が物語の冒頭で「命より大事なものなんかない!」と叫んでいたのに、クライマックスでは特に理由もなく「命より正義を優先すべきだ!」と主張しだしたら、もはやただのギャグだろう。
 これは主人公の考え方、つまり主観という視点が狂った例といえる。


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