視点 その51

     パースペクティブとカメラフレーム(1)




 描写というのは、その気になれば文章はどこまでも続けられるものである。だが、あまりに長すぎるとクドくなって、ピンぼけとなり、逆に伝わりにくくなる。
 ゆえにまずは中心を見失わないために、前章でフォーカスについて説明した。

 フォーカスとはつまり、描写の中心、視点の中心ということだ。中心[フォーカス]が決まれば、次は、写真やカメラでいう辺縁[フレーム]も決まってくる。視野の範囲内において、フォーカスから最も離れた場所が当然、フレームということになる。
 ただし、視野の範囲内に限るが。

 何を描いて何を描かないか、という問題において。実は「描かない」ということとは、モチーフがフレームの外に存在しているということになる。

 ここで気を付けなければならないことがある。写真内では、フレーム内の全てのモチーフは均質に映される。だが実際の人間の視野では、中心と辺縁とで、描写の密度に差がある。
 基本的に意識できるのは、注目している中心のモチーフだけで。視野の外になるほど興味は薄れて行き、いつの間にか「見えなかった」ことすら意識の外へ追いやられてしまう。
 人間の実際の視野とは、中心と辺縁とで、濃淡や遠近があるのだ。

 人の視野は写真やテレビのように、ここから先は見えない、という明確な境界線があるわけではない。
 まるで、波が打ち寄せては引く砂浜が、海と陸との境界線であるように。人の視野には「見える見えない」の境界線として、グレーゾーンの広がる一帯があるのだ。
 そしてこの、人間の視野の認識法こそ、文章におけるフレームに最も感覚として近くなる。これは文章独特の認識法といえるだろう。


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