視点 その61

   特殊技法・文章による現示性の再現




 以上で視点と人称、およびパースペクティブに関し、ボクの持てる知識は全て開示した。
 その上で復習として、全ての知識を使いこなさなければならない応用法をひとつ、紹介しよう。

 課題は「現示性」だ。
 基本的に文章は線条性を持っており、絵画のような現示性のある表現はできない。それをパースペクティブを使い表現してみよう。
 実際にどうすれば良いか。下の解説を読む前に、みなさんも一度考えてみて欲しい。

 ……さて解説だ。
 実はどのみち、文章に現示性を持たせることは不可能だ。これはもう、そういう性質なので仕方がない。
 だが現示性により、いくつものモチーフが同時に提示されるといっても。人間の視野が持ちうるフォーカスは、いつだって一点だけだ。
 ここに攻略点がある。

 まずは準備として、いくつかの仕込みがある。
 現示性を表現する前に、できるだけ焦点子と読者とのパースペクティブを近づけよう。それこそ一体化するくらいに感情移入させる。
 感情移入できたなら、現示性の描写に入るのだが。モチーフの入り方にいくつか注意点がある。パースペクティブは遠めで、スケールは大きく。そして焦点子からモチーフを見た印象も、少しやっておこう。
 これで準備完了だ。

 パースペクティブは遠くから入ったのだから必然、今度はパースペクティブを近づけ、細部の描写を行うことになる。そのとき焦点子の印象を起点に、細部の突き詰めを行うこと。

 すると、焦点子と読者とのパースペクティブは近づけているはずだが。起点の印象から、次に焦点子がどこへ興味を持つか。読者と焦点子とは同化している。だったら焦点子の視線がどう移動しても、読者もそちらに興味を自然と抱くはずだ。
 つまり現示性といっても、読者の好き勝手にものを見せない。細部の順序を、こちらで決める。好き勝手にさせない。
 焦点子の視線をこちらで誘導することにより、同化しているはずの読者の視線も誘導できるはず。そしてフォーカスはいつだって一点のみ。

 すると視線に順番が持たせられるということは、線条性と同じ状態になる。
 つまり現示性を前にした人の印象を、パースペクティブで再現しようという試みだ。


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