描写 その8 中心に触れないで描き出す(2) |
|
では小説での描写とはどうやって行うのか。方法は色々ある。作業の実例を、幾つかだけ挙げてみるとしよう。 【手法例その1】 さきほど悪例として紹介した「私はハンサムだ」という説明だったのだが。実はコレも「自ら宣言する」という、一手法ではあるのだ。意識的に使えれば効果的ではあるが……ま、大抵は単なる説明文で終わってしまう。 難易度としては中級以上の、小手先テクニックということになるだろうか。最初のうちは使わない方が無難だろう。 【手法例その2】 これが描写技法における最も多用する手法となるだろう。モノをリストアップする。描写の部品となる言葉を、具体的な事例として挙げてゆく。 例えば「私はハンサムだ」を描写するのならば。「ハンサムだ」という印象に至った理由を、ひとつひとつ挙げてみるのだ。 《例》 「涼やかな目線、すっきりした鼻筋、甘い口元」 すると、以上の事例を通して、あるひとつの印象が結実するようになる。「涼やかな目線で、すっきりした鼻筋で、甘い口元の男性ならば、ハンサムな人なのだろうな」といように。それも、単なる一般的でありふれたハンサム像ではない。その描写独自のイメージ・ハンサム像が出来る。 リストアップした要素が、公倍数的にどんな共通項を持っているのか。一種の連想ゲームのようなものだ。ただし正解は読者の中にしか存在しない、ね。 これが、単語に頼っただけでは得られない効果。描写によって生まれる印象というものだ。 【手法例その3】 さっき説明した、【手法例その2】の応用となる。ボクはこの手法を「パントマイム」と呼んでいる。 パントマイムとは、言葉を使わず、身ぶりや表情だけで表現する演劇のことである。つまり《説明》という言葉に頼らず、演技によって描写を行うのだ。 「私はハンサムだ」の描写ならば、ハンサムな人を演じる。いかにもハンサムであるように振る舞う。 《例》 「俺は髪をかき上げると、その場でターンを決めてみせる。フッ」 パントマイム技法とはつまり、キャラクターの振る舞いそのものが、具体的な事例のひとつである、ということになるだろう。 上の例はあんまりと言えば、余りに酷い例ではあるのだけど。パントマイム表現はキャラクターの動きに直結しているがゆえに、どちらかというと、キャラクターの内面を描くために多用される傾向がある。 《例》 ●怒り = きつく拳を握る ●驚き = 飛び上がる ●恐怖 = 悲鳴を上げる ●悲しみ = 涙を流す またパントマイムの場合、あえて内面と外面とにギャップを出すのも面白いかもしれない。例えば、心で悲しみの涙を流しているのに、外面では笑顔でもって真意を隠す、とかね? これはこれでまた、小説にしかできない独自の技法だ。 まだまだあるよー。 |