視点 その56

     パースペクティブと奥行き(1)



 以上までがパースペクティブにおける基本的な約束事となる。そして、ここからお教えするのが、パースペクティブにとって一番の目標となる特殊効果だ。
 パースペクティブとは、すなわち遠近法のこと。ならば、文章のパースペクティブのみ、つまりは視点のみで空間を描写してみよう。それも、空間を表現する語を使わずに。
 文章によって空間を表現するといっても、空間の何を表現するというのか。今回は空間の特に、奥行きについて考えてみる。

 空間の奥行きを出すには、その空間内にあるふたつ以上のモチーフに対して、それぞれ異なるパースペクティブをつけよう。
 そして、それらのモチーフを対比させる。この対比が空間の奥行きになるはずだ。

 これが2モチーフの両方とも同じパースペクティブではいけない。
 異なるパースペクティブを持たせることで、近景と遠景ができる。すると遠近の間の距離が生まれる。ゆえに空間的な奥行きのように感じるのだ。

 ここで注意しなければならないのは。焦点子とモチーフ間の距離は、遠すぎても近すぎてもいけない、ということだ。
 カメラをロングに引くと、近くの人も遠くの人も似たような大きさになってしまう。だから近くのモチーフは極端に大きく、遠くのモチーフはすごく小さく描くことで、奥行きが出てくれる。

《例1》
「御山はまだ冬で、てっぺんが雪で白くなっている。しかし麓の野はとうに雪が解け。緑の草と、小さな黄色の花。里にも春が訪れようとしていた」
(去る冬と、遠い山。そして近づく春と、近くの里。ふたつの対比となっている)

《例2》
「路地裏の三階建ての雑居ビルの一室。小汚い探偵事務所が、今じゃ俺の城だ。あの新宿の高層ビル群に居を構えていたのは遠い過去の話さ」
(昔の自分がいた遠いビルと、今の自分がいる雑居ビル。ふたつの対比となっている)


 実はコレこそが、以前やらせてもらった「風景描写のコツ」の原理となります。


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