描写 その14

   「言い当てる」ための描写(3)




 実際のところ、描写文だからと言っても、何でも書けば良いと言うものではない。描写文であっても、説明文のように、論脈とは無関係ではいられない。
 《説得力》は文章が持つもっとも強いちからのひとつだ。

 『「言い当てる」ための描写(1)』において「焦点の合っていない」描写文の例を挙げた際に、ボクは「だからどうした」と言った。
 書きながら常に自分へ「だからどうした」と言い聞かせなくてはならない。この文章を他人が読んだ時に、どのような感想を持たれるか。何があったから、どうしたのか。
 大事なのは「自分が何を書きたいのか」ではない。自分が描写対象をどのように書くことで、他人にどのように読まれるのか。イメージを操作しながら書かなくてはならない。

 「書きたいから書く」のではない。「書きたいことがある」なんて語り手として最低条件だ。「アイデアだけは持っている」と言う人なら大勢いる。しかし誰もがプロの小説家になれるわけではない。
 そうではない。「伝えるために書く」のだ。伝えられない思いには、価値も意味もない。

 実際の書き方にすると、こういう風になる。
 具体的な事例を挙げて形容したり描写している箇所を見つけたら、それをそのような具体物と結びつけた主体がいったいどこの誰なのかを、ひとつひとつ考えてみる。
 「美しい景色」と言ってはならない。だが語り手は描写しながら「美しい景色」を忘れてはならない。
 でなければ、描写が冗長になる。

 そもそも描写とは、最適な長さで、最適な言葉を選び、言い当てる作業である。やろうと思えば、描写は延々と続けられる。だから取捨選択して無駄な文章を削る作業が必要となる。
 描写対象の「本質」を掴み、ある行数、ある語数で言い当てる。
 重要な描写対象なら、長い文章を使って、より詳しく読者にイメージを鮮明に伝える。逆に重要でない描写対象なら、短い文章で、曖昧なイメージしか読者に伝えられなくても、問題はない。

 形容詞を使うのも描写の一種には違いない。ただ形容詞だけでは、大雑把なイメージしか読者に伝えられない。だからもちろん、「どのような」ものなのかを伝える必要がない描写対象であれば、形容詞を使うのは有効なのだ。
 例えば、ストーリーの大筋に直接関係しない「通行人A」だとか。

 だとすると《描写》とは「文章の書き方」に収まる概念ではない、と言うことになる。『はじめに2』でも説明した。ひとつの技法はあらゆる階層で使うことができる。
 もし、描写対象をとりまく《言葉》を、《シーン》とか《場面》に置き換えたとしたらとしたどうだろう。後は各人で考えてほしい。
 《描写》とは、かなりの応用範囲を持つ概念なのである。


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